○小笠原村愛玩動物の適正な飼養及び管理に関する条例
令和2年3月25日
条例第10号
(前文)
小笠原諸島は、平成23年6月に世界自然遺産に登録された。海洋島特有の生態系は、外来種による影響に対して極めて脆弱である。様々な効用をもたらすペットもまた、野生下に放たれることにより小笠原固有の生態系へ不可逆的な影響を及ぼすことが懸念される。
小笠原村では、人為的に持ち込まれたネコが飼養放棄され、集落内で飼い主のいないネコが増えたことにより、環境衛生の悪化、希少鳥類への被害が発生し始めた。そのため、関係機関や島内外の関係者、村民の協力のもとに、飼い主のいないネコの捕獲などの対策を進めるとともに、平成10年には日本で初めて飼いネコの適正飼養に関する条例を制定し、飼いネコの飼養登録などを進めてきた。これまでの長年の取り組みにより、アカガシラカラスバトやオガサワラオオコウモリなどの希少種の生息数が回復するなどの成果が見られてきている。また、飼いネコの適正飼養が浸透することで、それらの希少種が野外で襲われるリスクが減少した。一方、一度外来種として野生に定着してしまったネコの捕獲については、その成果が現れ始めるまでに、多大な費用を投じ労苦を経験してきている。ネコの他にも、これまで多くの外来種対策が行われてきており、そのような中で、新たな外来種の侵入・拡散を防止することが、世界自然遺産管理の重要課題のひとつとなっている。そのため、ペットについても、新たな外来種として生態系に影響を及ぼさないよう、ペットと野生動物がすみ分けできる仕組みを構築することが求められている。
今般、小笠原特有の自然的、社会的状況を鑑みて、ペットを適切に取り扱うことにより、「人とペットと野生動物の共存」を実現し、村民の財産でもある小笠原諸島の自然環境の永続的な保全が、より高度に担保されるよう、この条例を制定し、豊かな暮らしと豊かな自然を紡ぐ村を目指す。
(目的)
第1条 この条例は、愛玩動物(以下「ペット」ともいう。)の適正な飼養及び管理について必要な事項を定め、環境衛生を保持し、愛玩動物による生態系に係る被害を未然に防止することで、小笠原村(以下「村」という。)において人とペットと野生動物の共存を実現するとともに、世界自然遺産として顕著で普遍的な価値があると認められた小笠原固有の自然環境の保全を図ることを目的とする。
(定義)
第2条 この条例において、「愛玩動物」とは、愛玩又は鑑賞の目的で飼養され、又は保管されている動物をいう。ただし、次の各号で定める動物は除く。
(1) 農業、畜産業、水産業の目的で飼養され、又は保管される動物
(2) 前号の目的のほか食用の目的で飼養され、又は保管される動物
(3) 運転又は牽引する動力の目的で飼養され、又は保管される動物
(4) 学校施設及び児童福祉施設において、教育の目的で飼養され、又は保管される動物
(5) 老人福祉施設において、高齢者福祉の目的で飼養され、又は保管される動物
(6) 学術・開発研究機関、博物館相当施設及び博物館類似施設において、学術、開発、研究及び調査の目的で飼養され、又は保管される動物
(7) 生態系保全の目的で飼養され、又は保管される動物
(8) 小笠原村長(以下「村長」という。)がその他公益上特に必要と認める目的で飼養され、又は保管される動物
2 前項各号に定める動物であっても、犬及び猫は愛玩動物とみなす。
3 この条例において、「飼い主」とは、村内において愛玩動物を所有、占有又は管理する者(村民に限らない。)をいう。
(村の責務)
第3条 村は、この条例の目的を達成するため、必要な施策を策定し、自然環境の保全又は愛玩動物の愛護と適正な飼養の普及啓発について活動を行っている関係行政機関及び関係団体等と連携又は協力して、これを実施しなければならない。
(村民等の責務)
第4条 村民及び村内に一時的に滞在する者(以下「村民等」という。)は、この条例の規定に基づいて行う施策に協力しなければならない。
2 村民等は、自ら飼養していない動物(野生動物を含む。)に対し、みだりに餌又は水を与えないよう努めなければならない。
(飼い主の責務)
第5条 飼い主は、自ら飼養する愛玩動物(以下「飼養個体」という。)を、その生態、習性及び生理に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、人に迷惑をかけてはならず、飼養個体の健康及び安全を保持し、並びに飼養個体による生態系に係る被害を未然に防止しなければならない。
2 飼い主は、飼養個体が自己の所有に係るものであることを明らかにするよう、個体を識別するための措置をとるよう努めなければならない。
3 飼い主は、飼養個体をみだりに繁殖させてはならず、適正に飼養することが困難とならないよう、又は生態系に係る被害を未然に防止するよう、繁殖を防止するための措置等をとるよう努めなければならない。
(愛玩動物の持込みの制限)
第6条 何人も、次の各号に掲げる愛玩動物を除き、村外から村内への愛玩動物の持込みをしてはならない。
(1) 犬及び猫
(2) 第8条第2項による登録を受けた愛玩動物(以下「登録個体」という。)
(動物の持込み申告の義務)
第7条 動物(愛玩動物に限らない。)を所有し、占有し、又は管理する者は、その動物を村外から村内へ持ち込み飼養する場合には、村長が別に定める規則(以下「規則」という。)で定めるところにより、村長に申告しなければならない。
(愛玩動物の飼養登録の義務等)
第8条 飼い主は、村内で飼養個体が30日を越えて飼養される場合には、村内で飼養を開始した日から30日以内に、規則で定めるところにより、飼養個体の登録を村長に申請しなければならない。
2 村長は、第1項の規定による登録の申請があった場合には、登録し、規則で定めるところにより、申請した者に対し飼養個体の飼養登録証を交付しなければならない。
3 前項の規定による登録を受けた飼い主(以下「登録飼い主」という。)は、飼養登録証を紛失又は損傷した場合には、規則で定めるところにより、再交付を村長に申請しなければならない。
4 村長は、前項の規定による再交付の申請があった場合には、申請した者に対し飼養登録証を再交付しなければならない。
5 登録飼い主は、登録事項に変更が生じた場合には、規則で定めるところにより、遅滞なく登録事項の変更を村長に届け出なければならない。
6 登録飼い主は、登録個体の死亡、譲渡又は村外移転等により飼養登録の抹消の事由が生じた場合には、規則で定めるところにより、遅滞なく飼養登録の抹消を村長に届け出なければならない。
8 登録飼い主は、毎年度、登録個体の飼養状況を村長に報告し、又は規則で定める村長が指定する獣医師(以下「獣医師」という。)の聞き取りを受けなければならない。
9 前号の規定により登録飼い主から登録個体の飼養状況の聞き取りをした獣医師は、飼い主の同意を得て、登録個体の飼養状況を村長に報告するものとする。
(愛玩動物の適正飼養の義務)
第9条 飼い主は、悪臭及びはえ、蚊、のみその他の衛生害虫の発生を防止するよう、飼養個体のふん尿その他の汚物を適正に処理しなければならない。
2 登録飼い主は、登録個体が命を終えるまで適正に飼養しなければならない。ただし、適正に飼養できる者へ登録個体を譲渡する場合は、この限りではない。
(愛玩動物の遺棄の禁止等)
第10条 何人も、みだりに愛玩動物を遺棄してはならない。
2 飼い主は、生態系に係る被害を未然に防止するため、飼養個体の特性に応じ、室内飼養又は飼養個体の逸走を防止するために必要な措置をとらなければならない。
3 愛玩動物を逸走させた者は、直ちに村長その他の関係機関に通報するとともに、逸走した愛玩動物の捜索及び捕獲等の必要な措置をとらなければならない。
(飼い主の会)
第11条 登録飼い主は、愛玩動物の適正飼養の推進を図るため、「飼い主の会」を結成し、又はこれに加入するよう努めなければならない。
2 飼い主の会は、飼い主及びその他の入会を希望する者で結成されるものとする。
3 飼い主の会の役割は、次の各号に定めるところによる。
(1) 環境衛生の保持に努めること。
(2) 愛玩動物の飼養を開始する者の相談窓口となること。
(3) 愛玩動物の適正飼養の推進に関し、村と協力し必要な普及啓発又は情報交換を行うこと。
(4) 前各号のほか条例の目的を達成するために必要な措置をとること。
4 村長は、飼い主の会が適切に結成され運営されるよう助言をしなければならない。
(審議会の設置)
第12条 村長は、この条例の施行及び運用に関し必要な助言を得るため、村長の附属機関として、小笠原村愛玩動物の適正な飼養及び管理に関する審議会(以下「審議会」という。)を設置する。
(審議会の所掌事務)
第13条 審議会は、村長の諮問に応じて、次の各号に掲げる事項について、調査し、又は審議して答申し、又は村長に対し意見を具申する。
(1) 愛玩動物の適正な飼養及び管理に関すること。
(2) 愛玩動物による生態系に係る被害の未然防止に関すること。
(3) その他村長が条例の目的を達成するため必要と認めること。
(審議会への諮問)
第14条 村長は、第6条を改正しようとする場合には、あらかじめ、生物の性質に関し専門の学識経験を有する者等の助言を踏まえ、審議会に諮問しなければならない。
(審議会の組織)
第15条 審議会は、次の各号に掲げる者のうちから、村長が委嘱する委員12人以内をもって組織する。
(1) 関係行政機関の職員 2人以内
(2) 関係団体の役員又は職員 4人以内
(3) 識見を有する者 4人以内
(4) 飼い主の会の会員 2人以内
2 前項に定める者のほか、特別の事項を調査し、又は審議するため村長が必要と認める場合は、臨時に特別委員を置くことができる。
(審議会委員の任期)
第16条 委員の任期は3年とし、再任を妨げない。ただし、補欠の委員の任期は前任者の残任期間とする。
2 前条第2項に定める特別委員の任期は、当該特別事項の調査審議期間とする。
(審議会の会長)
第17条 審議会に会長1人を置き、委員の内からこれを互選する。
2 会長は、会務を総理し、審議会を代表する。
3 会長に事故があるとき、又は会長が欠けたときは、あらかじめ会長が指定した委員がその職務を行う。
(審議会の会議)
第18条 審議会は、会長が招集する。
2 審議会は、委員の過半数の出席がなければ開くことができない。
3 会長が必要と認める場合は、委員及び特別委員は、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができるシステムを利用して会議に出席することができる。
4 審議会の会議の議事は、出席した委員の過半数で決し、可否同数のときは、会長の決するところによる。
(審議会の庶務)
第19条 審議会の庶務は、環境課で処理する。
2 村長は、前項の規定による勧告を受けた者がその勧告に係る措置をとらなかった場合には、特に必要があると認めるときは、その者に対し、期限を定めてその勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
3 村長は、前項のほか生態系に著しい影響を及ぼすおそれがあると認められる場合には、飼い主に対し、飼養個体の抑留、隔離、村外搬出その他必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
(検査等)
第22条 村長は、この条例の運用に必要な限度において、飼い主に対し、飼養個体に関し報告を求め、又はその職員に、飼養個体の飼養施設その他必要な物件に立ち入り、物品又は飼養個体を検査させることができる。
2 前項の規定により立入検査する職員は、規則で定めるその身分を示す証明書を携帯し、関係者に提示しなければならない。
3 第1項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
(委任)
第24条 この条例に定めるもののほか必要な事項は、規則で定める。
附則
(小笠原村飼いネコ適正飼養条例の廃止)
2 小笠原村飼いネコ適正飼養条例(平成10年条例第30号。以下「旧条例」という。)は、この条例の施行日前日に廃止する。
(準備行為)
3 本条例第8条第1項による申請は、この条例の施行前にも行うことができる。
(経過措置)
4 この条例の施行の際、現に、村内で愛玩動物を飼養している場合には、本条例第8条第1項中「村内で飼養を開始した日」を「この条例が施行された日」と読み替えるものとする。
8 村長は、村内の犬の飼養状況等を勘案し、犬の繁殖を防止するための措置等に関する検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講ずるものとする。
附則(令和3年3月22日条例第14号)
この条例は、令和3年4月1日から施行する。
附則(令和6年3月25日条例第6号)
1 この条例は、令和6年4月1日から施行する。
2 この条例による別表第1中の犬に関する規定は、この条例の施行の日以後の登録個体について適用し、この条例の施行の際、現に、登録されている個体については、なお従前の例による。
別表第1(第9条第3項関係)
愛玩動物の種類 | 個体を識別するための措置 |
猫 | 動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)第39条の2第1項に規定するマイクロチップの装着及び規則で定める首輪の装着 |
犬 | 動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)第39条の2第1項に規定するマイクロチップの装着 |
別表第2(第9条第4項関係)
愛玩動物の種類 | 繁殖を防止するための措置等 |
猫 | 生殖を不能にする手術 |
別表第3(第9条第5項関係)
愛玩動物の種類 | 飼養上限数 |
猫 | 5 |
犬 | 5 |